「横浜貿易新報」に見る横浜関連鉄道記事ファイル
国鉄編(2)

〔明治41年〜明治42年〕

【注】 
→記事見出し ・  →ハマちゃんの感想

年号                              国有鉄道
明治 41 1 20 京浜腺増設頓挫

鉄道庁の計画に係る京浜間鉄道線路増設の件は是非共四十一年度より遂行の筈なりしも突然追に予算に大削限を受けたるを以て計画は今日の処兎角一時事止みとなりたりと。
 【横浜貿易新報の社説的記事より】

(経済状態が悪化したのであろう)
明治 41 3 1 横浜停車場の拡張

横浜停車場び貨物取扱い設備は今日の如く増進せる商業の需要に応ずるに足らざる次第は毎度論述せし処なるが鉄道庁に於ても夙に茲に見る処あり、その拡張計画のある由に洩れ聞きしが、其の設備を拡張せんとするにも現在の敷地にては狭隘を感ずるの憾みあるを以て目下第一号国道の一部となりおれる弁天橋際より横浜船渠会社に到る沿岸の道路を廃道として、之を鉄道構内敷地に編入し、その代り桜木町通りの市道を国道と為すべしとの議あり。
右の庁議は愈々之を実行する事となりしと見え、来る十六日に開会すべき臨時県会の一議案として第一号国道一部変更諮問の件を見るに及びり、之と同時に尚停車場の敷地を拡張する要あるを以て県有に属せる永住町官舎跡地六千余坪を停車場に組入れるの議あり。右臨時県会の一議案たる不動産処分の件は即ちこの事を指すものなりと解せらるる、去ればこの議の行はるるに到らば今の電車の海岸線は桜木町通りに移され大踏切には高架式を以てする事となるべき筈にして横浜停車場内貨物取扱設備の拡張をみるべきものあるべしと云う。
然るに一方に於いて同停車場内より税関新埋立地に通ずべき鉄道線路は目下工事中にしてその開通するは本年秋頃なるべしとの事なりしが今聞く所によれば材料の到着の遅延等により右工事の完成は四十一年度一杯を要すと言えば右海陸連絡鉄道の開通するは来年四月頃なるべし、兎に角横浜停車場の拡張案が愈々実施の端緒に上れるは吾人の頗る快感して措かざる所にして、来る臨時県会の議決は我横浜市商業の興廃に関する所なりとして横浜市民の大いに注目すべき所なり。
 【横浜貿易新報の社説的記事より】

(横浜駅拡張に伴って横浜電鉄の海岸線を官線の反対側に移転し交差部は官線を高架線にする旨提案している)
明治 41 3 20 横浜停車場と政府 (山口帝国鉄道庁工務部長談)

今回の横浜停車場拡張に関する横浜貿易新報の主張は横浜市民多数の希望を代表せるものとして謹読する所なり、元来横浜停車場は明治2年の建築に係り其後貿易及び商工業の発達に隋ひ多少の改良を加えしものなきにあらずと雖も是れ唯だ現在構内の施設に止まり、構外の拡張は四十年間絶えて着手せし事なく以って今日に至れり。
この間構内狭隘の為に貨物の停滞年一年其度を加えしが爾かも此状態は唯に横浜駅のみに止まらず(中略)就中横浜及び神戸は貿易発展上必要の施設として海陸連絡工事を施すに決せし(中略)、唯目下神奈川県庁に対して要求せし点は永住町空地の買入と国道の変更とに在り。
国道を変更し桜川を埋立れば全部の道路敷は(現国道八間、花咲町道六間、川敷十間、停車場道五間)二十九間となるべし、この内花咲町側八間を国道とし残り二十一間(約38m)を構内に編入せばやや目下の海陸連絡及び線路入れ替えの急務的必要に応じ得べき見込みなる、(中略)或は当庁の此計画即ち桜川の埋立が横浜市民一部の提唱に聞きたるならんとの疑いを抱くものなきにあらざるも構内所要の敷地としては桜川を是非とも必要とするに依り埋立んとするに在りて、一部分の市民には多少不便たるべき処ありとするも当庁はこれ等市民諸君が大局に鑑み市港の発達を企図する点に於いて、当庁の意志を要るるの雅量あらんことを切望せざるを得ず。
かくして構内には新たに八・九條の軌道、列車入替線を増加し得らるべければ、当初の計画の尚一層多数の軌道を敷設せんとするの希望には副う能はずと雖も、近き将来の商工業の発達と貿易の進捗とに伴う横浜停車場の運為に適応するに近からんを信ず。(中略)又大踏切の高架線は初め直角式の予定なりしに県庁に求めにより曲角に改めたれば多少経費の増加を免れず、終わりに一言す鉄道庁の事業は一般民業と豪も撰ぶ所なきに出来得る限り便宜をはからんとするに在りて鉄道を利用せらるると否とは一に相手の手腕に存する即ちこの場合に於いて当庁の商売的方針をも紹介されん事を望む云々
 【横浜貿易新報の記事より】

(海陸連絡線完成を期に横浜駅の拡張計画し、桜川を埋立てて用地を確保し海側に駅を拡張するつもりであったようだ。海側を走っていた横浜電鉄を山側に移転させる為に、交差させる為官線を高架にする事はこの時点ですでに確定していたようです)
明治 41 4 2 京浜間複線計画

鉄道庁にては来る四十五年大博覧会までに東京・横浜間に現在複線び外、尚ほ複線敷設せん計画ありて、其線路敷設の土地は目下鉄道庁にて所有し居れるも、中間停車場敷地の買入れに多大の経費を要すべきを以って、明年度中に右経費支出の経費を経ば、同四十五年迄には落成運転の運びに至るべく若し停車場敷地の為甚だしく経費を要するに於いては、最初は単に京浜間貨物の輸送のみにても開始すべき計画なりと聞く。
 【横浜貿易新報の記事より】

(複線分の用地は既に買収されていた様だ。さらに貨物輸送のひっ迫が想像される)
明治 41 4 7 横須賀線接続問題

東海道線は来月末を以って大体複線工事終え開通する予定なるが、右に関し新橋神戸間に於ける列車運転時刻改正の必要あるを以って複線開始後五月末日、若しくは六月上旬より直急行以下全部列車の時刻を改正する計画なるが、久しき問題たる横須賀線接続については現今運転せる午前午後の一二等急行及び三等急行二三等急行の往復八個列車は、何れも大船駅通過なるが同支線は里程僅少なるに、現今横須賀は市制実施以来交通頻繁となりたるのみならず、鎌倉・葉山両御用邸及び六個の御別邸を有し、尚沿道到る所、貴紳の別荘無数に散在せる外、横須賀鎮守府よりしばしば呉・佐世保・舞鶴等に公用又は私用を以って急行する将官以下、日々多数に達しこれ等は何れも急行列車客多数を占め居るも、前記の如く大船通過なるを以って同列車に乗車せんとせば、先ず大船駅に於いて他列車に乗換え国府津駅にて於いて乗換えを要する等不便少なからずを以って、鉄道庁に於いて今回の時刻改正を期とし前期急行列車を大船駅に停車せしめ、横須賀線接続を計らんとて目下計画中なり。
 【横浜貿易新報の記事より】

(明治41年になって東海道線全線複線となったのは単線開通から20年を要したのですね。又横須賀線の重要度が高まった事も解ります)
明治 41 4 16 鉄道庁の京浜間電鉄

先に鉄道庁に於いて企てたる東京横浜間電車計画は今回更に中止せる旨過日平井総裁の明言せる所なるが、右は永久に中止すべきものに非ずして単に予算の都合上今明年度は之を中止するに至りたるものにて、遅くとも来る四十五年の大博覧会迄には右計画の実行をなす方針なりと云えり。
 【横浜貿易新報の記事より】

(電車計画であった)
明治 41 4 16 京浜電車と国鉄電車

鉄道庁計画の京浜電鉄は別項の如く四十五年迄に完成せしむる方針の由なるが、右開通の上は現在の京浜電車株式会社の運命は果たして如何なるべきか、右に付き鉄道庁某幹部は語って曰く、鉄道庁京浜電鉄は烏森・横浜間に運転する計画なるを以って、右開通の上は現京浜電車は甚だき打撃を与える如く予想するも、同電車も現在の儘にては連絡甚だ確実ならざるも、協議の末東京市内電車と合併して其賃金も低麗を計りたらんには、左程の打撃にも有らざるべしと思われる云々。
 【横浜貿易新報の記事より】

(並行運行されている京浜電鉄に多大の影響有と予想の事)
明治 41 8 12 電気機関車採用

鉄道庁にては電気機関車を採用するに決し既に調査し居れる。(中略)京浜間の如くは短距離にして往復頻繁なる所は甚だ経済的なるを以って先ず京浜間及び阪神間に設備するに至るべく右の調査は本年度中に終了の上計画確定するに至るべしと云う。
 【横浜貿易新報の記事より】

(鉄道の電化の決定か?)
明治 41 8 26 《コラム》

▽横浜停車場拡張設計その後の進行模様に就き、鉄道庁工務部長山口博士の語る所に依れば、世間では桜川埋立に対し横浜市の一部では反対したから、昨今この拡張が一時中止されて居るかの様に噂されるけれど、実際そんな訳でない。 ▽成る程横浜から意見の陳べにきたけれど鉄道庁では之を横浜の世論と認めて居らないのみならずよしや反対が一部にあってもこの位の反対には驚かないのである。 ▽然るに一方税関工事部の繋船岸工事及び之に伴う上屋倉庫は目下どしどし建築され陸上連絡工事も既に鉄橋を架設さえすれば完成するので横浜の商人はこの進行の有様を見て一日も速やかに之を利用せんと待構えるに付ても何故鉄道庁は停車場の拡張改良の設備に着手せぬのかを怪しんで居る程であるが怪しむのは尤もの次第だ。 ▽而して鉄道庁は何を隠そう設計に相当する予算が足らないので現に永住町空地の買収費もやっと此の程交付した始末であるから駅の全部に渉る拡張案も其のままとなって居るのである。 ▽実はこの設計工事が決定せぬ間は横浜電車の内田町単線を複線にする設計にも支障があるので市民交通上に対しても早く停車場を何とかせねばならぬのだが予算が足りなりのでどうする事も出来ない。(後略)
 【横浜貿易新報の記事より】

(横浜停車所拡張工事が進まないのは予算がたりないからであると書かれている。果たしてこの時点で横浜駅の移転が検討されていたのではないでしょうか?)
明治 41 12 5 鉄道院設置、帝国鉄道庁および逓信省鉄道局廃止
明治 42 1 18 東海道線運転整理

鉄道院中部管理局にては新橋静岡間に於ける列車運転整理をなすべく調査中なりしが昨今漸く編成を終わりたるを以って愈々来る2月1日より実施する由なるが、旅客列車中神奈川横浜間横浜程ヶ谷間の小運転を増発し、尚今回整理の結果最大輸送力が箱根越600車内外に達すべき見込みなり。

 【横浜貿易新報の記事より】
明治 42 3 21 桜川埋立案内容

明22日の市会に提案されたる桜川埋立に関する県知事の諮問案に依れば大要。
1.桜木町1丁目より6丁目新橋まで桜川を埋立つる事
2.内田町5丁目現在の国道より分岐し、入船町まで即ちドックも通ずる道路を新設する事
3.桜木町1丁目より同7丁目東海道鉄道線に接するまでの道路を廃止する事
4.内田町1・2丁目間大岡川筋河口○○埋立の事
以上4項にして云うまでもなく横浜停車場拡張の為にこの埋立及び廃止を決行せんとする。
添付の参考書によると
@停車場附近に於ける運河は錦橋より花咲橋手前に至る間を埋立て、桜木町道路即ち現在停車場構内に渡る錦橋より新橋先きに至る間を廃道として鉄道院の用地とする事。
G電車線は富士見橋より新設道路に移設して錦橋に至る。
 【横浜貿易新報の記事より】

(要するに東海道線の複々線化に伴う神奈川駅から横浜駅までの用地の確保が目的の一つであったのではないでしょうか?)
(ここに記されている電車線とは横浜電鉄の事と思われます)
(この頃市当局は初代横浜駅を拡張し輸送力の増加に対応しようとしていたのが判ります)
明治 42 4 26 京浜複々線予算

過日六郷川汽車転覆事件は当局をして複々線の実施期を早からしめたるものの如く新橋横浜間、新橋横須賀間若しくは新橋国府津間を往復する旅客及び貨物列車は現今124往復に及びたるが僅か23日間の単線運転なりしも俄かに京浜間に貨物の停滞を生ずるに至れり兼ねて鉄道院に於いて計画し既に議会の協賛を経たる既設鉄道改良費中新橋横浜間・横浜程ヶ谷間及び大船横須賀間複々線予算210万円にては不足なるを以て更に追加予算を提出する事とし第一着手として新橋横浜間工事は来年度より着手する事に決し目下設計再調査中なりと云う。
 【横浜貿易新報の記事より】
明治 42 8 1 横浜海陸連絡 「京浜間の複々線敷設」

横浜海陸連絡工事は昨今大いに進捗して海岸に於ける土木及び橋台は殆んど出来上がり今後線路の敷設橋梁の工事に着手する筈なりしが、この分にて推し行けば多分11月迄には全く海陸連絡工事の完成を告げべく。尚是よりは横浜停車場拡張工事に着手する筈にて同工事は頗る大なるを以て42年度中には完成覚束なく、さて斯くのごとき海陸連絡完成せらるるに於いては、左なきにだに頻繁なる京浜間線はここに複々線敷設のの止むなきに至りたるが兎に角43年度より実施せんと昨今調査に着手したりと云う。
 【横浜貿易新報の記事より】

(ここに出て来る海陸連絡線とは横浜駅から新港埠頭〔明治33年着工・44年完成〕の横浜港駅に通ずる貨物線で、今の「汽車道」の事である。複線で明治44年9月1日に開通した。俗名を「税関線」と呼ばれていたそうです)
(この当時旅客・貨物輸送とも増加に対応しきれなくなって来ている様子が感じられます。)
明治 42 8 25 国鉄今後の改良 「東海道線の新設備」

古川鉄道院中部管理局長の国鉄改良方針談に曰く、急務中の急務として着手せざるべからざるは東海道線の線路にして、特に新橋横浜間若しくは新橋国府津間に於ける現在の複線を増加して四線とし、急行列車及び直通列車を以て一往復線を使用し、貨物列車と区間列車とを以て一往復線を使用する方法を採らん計画にて、明年度拡張予算として請求する筈なるが、尚今後着手せざるべからざるは横浜駅海陸連絡に伴同駅並びに神奈川駅拡張工事、右完了の暁には貨車操車上に多大の利便を来すべき見込みなり。
元来鉄道輸送は日清・日露両戦役の為、一層際立ちて発達したるも各停車場及び設備は従来、比し遅々として進歩せず時々無理に無理を重ね漸く運転を継続し居る状態なるが、最早現状にてはこれ以上列車増発の余裕なき有様なれば、是が完全なる輸送を期せんには東海道全線を四線とせざるべからざるも目下の財政にては到底不可能なるを以って先ず全線中難所たる山北・御殿場間の高勾配線改良し現在550両の貨車を1000両の輸送の計画に着手する云々。
 【横浜貿易新報の記事より】

(この時点でも鉄道院としても初代横浜駅を拡張して対応しようとしていた様である。また電車運転の話は出て来ていない様である)
明治 42 10 12 京浜鉄道改善建設 (横浜商業会議所提出)

横浜の港湾の設備陸上の経営両ながら市民の注意を惹き其の施設に汲々たるに、鉄道の設備は依然奮観を改めずただに進歩に伴はざるのみならず、ややもすれば之と背らするが如き措置往々にして有之茲に其最も緊急を要すべきもの二三を挙げれほぼ其理由を開陳して当局者の注意を請はんとす。
 其一  京浜発着急行列車の回数を増加する事
京浜間急行列車の回数は従来両地各5回なりしを、本年6月以来東京発3回横浜発3回とし、総回数に於いて其半ばを減少せられたり、急行列車の京浜両地商人に利便を興へ之に由って取引上の機宣を制し敏活の行動を為し来たりたる事実は何人も認むる所にして、殊に正午を中心とする前後の二三時は商人の最も活動する時にして、その間に介在する急行列車の利用は最も多かりしに朝夕二回の外、尽く之を廃止したるは通勤若しくは通学者を本位として商人の利便を閑却したるやの如き観あり。
 我が会議所は此際当局者の再考を請ひ速やかに従前の急行回数を複旧するのみならず尚進んで一層上の発展を計画せられ鉄道が商業上の利益たるの実を挙げられん事を希望する。
 其二 停車場及線路の拡張を計り貨物旅客の輸送を敏速ならしむ事。
従来の京浜間線路は規模小にして車両の自在ならず、余儀無く発着を制限し急行列車を制限して姑息の繰合せを為すを以て為に、旅客の不便を若起したるは勿論一朝先年の如き貨物集中の場合に在っては忽ち停滞を馴致し、由て以て商機を誤る事なきを保し難し、聞くところに依れば京浜間鉄道は現在線の外更に二條を布設するの余地あり、当局者は土地の収用其の他着々準備の途にあるものの如しと我が会議所は、此の際当局者は決断に信頼し断然姑息的手段を捨て、速やかに二線の増設を決行し車両の往復を機敏にして旅客貨物の輸送上遣憾無からしめられんことを希望する。
 其二 横浜海陸連絡線工事を速成せられたき事
横浜海陸連絡線工事と横浜税関拡張工事とは離るべきざる関係にして、相伴ふて進行すべきは論を俟たざる所なり、今や横浜税関拡張工事の一部は完成して其利用を待ちつつあるに拘わらず、横浜海陸連絡線工事未了に属するを以て税関の新設備に対しては横浜市は之が資金を分担し痛切なる関係あるを以て其利用を希望するは、実に一日千秋もただならざるものあり。
我会議所は此の際当局者が百難を排除して、鉄道連絡工事を速成すると同時に之に線路の拡張を遂行し以て横浜港貿易の発展に幇助を興へられん事を希望する。
右総会の決議を以て建議致成
 【横浜貿易新報の記事より】

 (地元企業人は鉄道輸送力増強に強い危機感があった事が感じられる)
明治 42 11 2 京浜鉄道改善

鉄道院にては横浜商業会議所の建議に基づき次年度に於いては京浜鉄道に大改善を施す筈なりその改善要綱は左の如し。
1.京浜発着急行列車回数の増加
2.停車場及び線路の拡張を計り貨物旅客運輸の敏速を計る事
3.横浜海陸連絡工事の速成
 【横浜貿易新報の記事より】
明治 42 11 10 京浜間六線計画

鉄道院にては愈々新橋・横浜間線路を複々線、即ち現在より一往復線を新たに敷設する事に決し、明年度予算改良費中に計上したる由なるが、その設計の大要を聞くに第一に困難を感じつつあるは、沿道土地の買収にて昨今其協定に着手したるも地主は意外の高価を唱へつつありされど、相当価格に応ぜざる限りは断然土地収用法を適用し、一日も早く国家交通の不便を完成する方針なるが、当局者は現在の程度に於いて複々線を竣成せば何等不便を感ぜざるも、今後十年を経過せば必ず六線敷設の必要を生ずべしとの見越しにて、土地は複々六線を敷設し得べき余裕を設けて買収し、明春早々一部工事に着手する事となるべし。しかして今回の工事は先ず現在の複線を中心として其左右に各一線づつの新線を敷設し四線となし、従って中間各停車場本屋並びにプラットホームの移転若しくは、改増築を為さざるべからずのみならず、各駅共線路の中央に一ホームを新設し、同時に陸橋の架け替えを為さざるべからざる等、非常の大工事を要しその費額の如きは優に一千余万円に上るべしくその竣成を見るは来る四十五年中の予定なり。
 【横浜貿易新報の記事より】

(土地は六線分を買収とあるが、実際は貨物線は品鶴線(大正13年着手し昭和4年完成した)になり品川〜鶴見間は四線になっている。ただし鶴見〜横浜間は六線になっている。)
(「今後十年を経過せば必ず六線敷設の必要を生ずべし・・・」とは将来予測とその対応がかなり確実に実行されていた事が判ります)
明治 42 11 18 京浜間増線工費

古川中部管理局長曰く東京横浜間複々線計画は、久しく以前よりの問題なりしも何時も予算の都合上繰延べられつつありしが、近時京浜間の交通頻繁となり到底現在の複線のみにては運輸の完全を期し難きを以て愈々明年度より三ヵ年計画工費約一千万円を以って工事に着手する事に決定し、目下それぞれ設計調査中なるが、右複々線工事完成の上は貨車線と客車線とを区分運転する予定なり。
 【横浜貿易新報の記事より】

(「貨車線と客車線とを区分運転」とあるがこの段階ではまだ電車運転は考えていなかったのだろうか?)
明治 42 12 6 京浜間複々線(鉄道院中部管理局長談)

京浜間複々線問題は既に前議会の協賛を経たるを以て夫々諸般の設計に取り掛かり居たり。頃日民間に於いて複々線の計画沙汰止みとなりしもの、如く伝ふるものあれどそは訛伝に過ぎず、少なくとも今後3年間には開通の運びに至るべけれど、要するに経費の都合により或いは時期に多少の延長を見るも止むを得ざらんか。

当鉄道院より今期議会に提出すべき改良費は約二千万円、建設費は二千六百万円合計四千五百万円なるが、幸いに上下両院を通過するを得ば来春早々着手の都合なり、元来京浜間の複々線は時期においてやや後れたるの感あるも事業は単に鉄道レールを複線にするに止まれず、横浜新橋両停車場に於ける荷役設備の改良拡張は元より沿線各停車場の拡張並びに地所買上げ等を総計せば費用約一千五百万円を要し、容易に着手する事能はざるも漸を以て進む考えにて、兎も角も鉄道を複線とし横浜駅の拡張を先にし次第に各駅に及ばす積りなり。

横浜駅の改造拡張に就きては桜川を埋立てて大々的に拡張を行はんとの論もありしかと聞くけど、かくては既定道路に変更を来し容易く行はれざるのみか、余は其の必要なき事を信ず、何となれば元京浜間複々線は単に貨物輸送の必要のみに止まらず旅客京浜間の往復頻繁となりし上に、一の幹線に対し近し幾多の支線を生じたる為幹線の輸送能力絶対に帰し、六郷の附近など鉄道事故頻々として起れるも一は之が為なりと見るべく。殊に横浜市の有力者などより、再三複々線敷設の急務を請願され当院亦其の必要を感じ殊に直接京浜間旅客交通の便を計ると同時に方々貨物輸送の便利を目的として複々線を計画せるものなり。(途中省略)

されば水陸連絡及び貨物仕分上、これら倉庫と繁船岸及び各倉庫と沿道停車場との間こそ将来鉄道敷設の必要ある可れど、京浜間鉄道輸送の貨物は商業の進歩と共に僅少となり行く筈なるを以て横浜停車場の拡張は左まで大ならざるも差支なからん。一方に於いて現今横浜停車場附の倉庫は前記の関係上単に横浜市に消費さる可き雑貨雑品等の受入れに止まるべく、横浜駅構内を大江橋両方面に取広ぐるが如きは実際上多大の効果なかるべし。(後省略)
 【横浜貿易新報の記事より】

(この時点で鉄道院はすでに横浜停車場まで複々線にする考えは無く、貨物駅としての拡張のみをし東海道線は枝線上にある横浜駅を通らず、新駅を造る方針であったのではと読取る事ができるのではと思われます。其の言葉とは「一の幹線に対し近し幾多の支線を生じたる為・・・」にある様にやはり東海道線の枝線的な横浜停車場までの区間がどうしても諸悪の原因となっていると考えたのでしょう。)

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